ページに落ちる翳

日々のできごと、本のこと。

死と時間について考えるー小瀬村真美展

北品川の原美術館で開催されている小瀬村真美展へ。

「薔」というタイトルのインスタレーションがいちばん印象深かった。

スペインの画家スルバランの静物画を模して実物のレモンやオレンジを配置したセットを組んで、朽ちていく過程をデジタルカメラでインターバル撮影したものを補正、加工してつなぎ合わせた作品で、ショートフィルムのようでも絵画のようでもある。

解説文の中で作者は「静物画を模してセットを組んだ際、わたしは絵画の空間は日常空間とは全く違うものだという事を感じていた。セットはなかなか基の絵画のように美しい形を自然には作る事ができず、オレンジやその葉をワイヤーで固定しなければならなかった。机自体もカメラに対して後ろ側が少し上がるように傾斜をつけた。」と述べている。


実際に再現しようとしてみなければ、きっと分からなかったことなのだろう。小説を書き写してみるのと少し似ている部分があるだろうか。見ている、読んでいるだけでは絶対に分からないこと、というのがあるのだ、と思った。


そして朽ちていく果物の映像を目で追いながら、なにかと似ている…と考えていて、思い出した。


あ、あれだ、リンチが自分の半生を語ったドキュメンタリー「デヴィッド・リンチ:アートライフ」。

地下のアトリエで、小動物の死骸などの腐敗していくさまを観察していた、若かりし頃のリンチ。

訪れた父親にコレクションを披露し、賞賛を期待して嬉々として振り向くと、そこには顔を曇らせた父親の姿が、そして「お前は結婚して子供を作らない方がいい」と言われた…という思い出を語るシーンがあった。


「死」と「時間」。芸術を志す人が共通して惹かれるテーマなのかもしれない。


また、展示されているオブジェクトの中にアンダーラインを引いた本があり、後で図録で調べたら、ポール・オースターの詩集「消失」とあった。

もう絶版になっていたが中古で売っていたので、内容をもう一度じっくり読みたいと思い、さっそく取り寄せてみた。

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