ページに落ちる翳

日々のできごと、本のこと。

「ソフィ・カルー限局性激痛」原美術館

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1999年に原美術館で開催した個展の再現展、とのこと。

カウントダウンの日数のスタンプが押された写真と文章を、挿絵入りの小説を読むようにずっと目で追っていく。

三カ月の留学が認められてしまったため、カルが行き先をいちばん興味のない国、日本に決めたというのが出発点。

だから到着するのをなるべく引き延ばすために、ロシアを横断する遠回りのルートを取ったことなどが語られる。なぜわざわざ興味のない国に留学することに決めたのかは、この時点ではまだ明かされない。

 

見ていくうちに、パリに好きな人を残して来なければならず、それが子どもの頃からずっと好きだったずいぶん年上の男性で、やっと両思いになれて一緒に暮らし始めて一年にもなっていなかったため、諸手を挙げて留学を喜べる状況ではなかったこと、葛藤ののち、日本に行くことを決めたことなどが分かってくる。

行きたくないという気持ちを表現するには、行き先も、行きたくない場所である必要がある、という風に考えたのだろうか。

 

留学中に日本で撮ったであろう写真も展示されていたが、ひたすら再会する日を待って、じりじりしながら日々をやり過ごしている様子が滲み出ているようだった。

 

留学を終えた後、相手とニューデリーのホテルで落ち合う為にインドに向かったカルへの報せは、幸福の絶頂から奈落に突き落とすものだった。

と、ここまでが前半部分。

 

後半は、ニューデリーのホテルでその報せを受け取ったカルのモノローグのメモがひたすら展示される。

自分に何が起こったか、ひたすら毎日同じ内容を書き綴っているのだが、心の傷が癒えていくに従って少しずつ文章が短くなり、経緯の説明も省略されていくのが、心の動きを反映していて興味深い。

 

そのメモの合間に、他の人たちのエピソード(カルが自分の不幸話をする代わりに、相手の辛い体験を聞き出したもの)も展示されていて、一番気になったのは、話すほど辛い事がこれまでなかった…と言い切った人。

どういう人生だったのか、逆に興味が湧いた。